見てきましたよ、ついに潜入してきました。どこへですって?
かつての「スマイルホテル」をリブランド、2021年7月5日にオープンした「アパホテル 長野」に泊ってきました。
コロナショックで大苦境のホテル業界にあって、「今はチャンス。撤退したり、計画を断念する人がいる。厳しい時こそ、寡占化できる」との強気の姿勢で、2021年に入ってからすでに15棟のホテルをオープン、さらに24棟の開業計画を進めるアパグループ。
アパホテルの戦略は、関係法令で定められた最小面積9㎡~11㎡(ユニットバスを含む)にセミダブルベッドを置くことで2名利用に対応するなど、延床面積に対する収容人数を最重視、居室のゆとりを売り物とするシティホテルとは一線を画す設計をしてきました。
航空運賃を手本に、残室数に応じて料金を繁閑日で大きく変動させる「ダイナミック・プライシング」を導入、客室稼働率を上げています。
駅に近い割に土地の形がいびつな変形地や、住宅・寺院などと接する路地裏の土地を、安価に取得することでコストを圧縮。
長野市では、どのような営業展開を目論んでいるのか、実際に部屋に潜入、この目で確認してきました。
130cm のセミダブルベッド1台が置かれた部屋の広さは、幅250cm、奥行450cm で11.3㎡。
ベッドまわりは幅250cm、奥行は 210cm で4畳半ありません。
スペースが狭めのわりには、ベッドサイズが大きいため、ベッドメイクする方はたいへんそうです。
天井高は入り口付近が210cmですが、ベッドのある部分は240cmに切り替わっているため、入り口部分でも圧迫感はありません。
まず目を引くのは、黒と白・ダークブラウンの統一感ある室内デザイン。
大胆な模様の壁紙を採用していますが、1面だけなので、うるさい感じはありません。
50型の大型液晶テレビ。画面の幅が112cm もあります。すべての部屋でVOD見放題です。
ベッドに寝そべって1日じゅう映画鑑賞、なんていう過ごし方も悪くありません。
眠るだけではない、滞在そのものを楽しめるホテルです。
ただVODのプログラムは、洋画ジャンルで20本程度と、数は多くありません。まあ、多すぎても選択を迷っちゃいますが。
東に向いた部屋の窓から、NTTビルの向こうに、菅平の山並みが遠望できます。(620号室)
こちらは814号室。やはり東向きの部屋です。
ダブルルームで申し込んだのに、空室があったのか、9階のツインルームに配室して頂いたことも。広々とした素晴らしい部屋でした。(2021年9月5日)
3階~6階のユニットバスはスマイルホテル時代のもの。やや使用感があります。トイレ便座は交換済み。
7階~9階の浴室は、アパホテルオリジナルの「たまご型ユニットバス」が導入されています。
浴槽サイズは L=100, W=67, D=60cm 、通常の浴槽より20%の節水効果があるとのこと。
つまりは容積が小さいということで、膝を抱える体勢での入浴になります。しかし、膝を左右にバカっと開くことができるので、窮屈な感じはありません。
卵型の曲線が背中のラインにフィットして、リラックスできます。
さらに浴室内の壁に対して、浴槽がやや斜めに設置されているので視界が広がり、開放的な気分になれます。
視界がちょっと変わるだけで、ずいぶん気持ちも変化するものですね。
寝具が素晴らしい。体重を受け止める柔らかめのマットレス (幅 140cm)。頭の重みを受け止めるよう、中央に窪みを持たせた枕。ぐっすり眠ることができました。
あまりに気持ち良かったため、フロントにメーカー名を問い合わせたところ、これもアパホテルオリジナルの「Cloud fit (クラウドフィット)」という寝具。
米トップブランドのシーリー社と共同開発、米国特許を取得した「ポスチャーテックコイル」を使用することで、「雲の上のような寝心地」を追求したとのこと。命名の由来です。
一般販売もしているようです。
種類 | サイズ | 一般価格 | アパ会員価格 |
シングル | W970 × L1950 × H540 | ¥210,000 | ¥189,000 |
セミダブル | W1220 × L1950 × H540 | ¥230,000 | ¥207,000 |
ダブル | W1420 × L1950 × H540 | ¥250,000 | ¥225,000 |
枕もオリジナル、「3Dメッシュ枕 Air Relax」
椅子がこれまた理想的です。
座面の高さは 42cm、足が楽です。キャスター付きなので、床に傷もつきません。
背面の上部がくりぬかれ、把手として使えるデザインは、お見事。スタイリッシュな色調も、部屋のトーンに調和しています。
ところがいただけないのが机です。
天板の下に収納スペースを付けたため、高さが73cmもあり、手首が肘より高い位置にきて、パソコン作業に向きません。
しかも天板の奥行が40cm に満たないので窮屈。PC作業には奥行 60cm ほしいところです。
最悪なのは、寝間着の収納スペースが天板よりも出っ張っているため、膝に手を置いた姿勢で無意識に立ち上がったところ、収納スペースの板と膝の間に手を挟み、裂傷を負ってしまいました。
これは本当に危ない。デザインと収納機能を優先して、実際の人の動きをシュミレーションしなかった結果でしょうか。
一言モノ申そうと思い、たいていのホテルに置いてある「お客様アンケート」を探したのですが、見当たりません。
ふと目を上げると、壁に掲げられた元谷 外志雄・アパグループ代表の写真が、「俺のホテルに不手際あるわけないのだから、アンケートなど不要だろう」と、不敵に笑っているようです。
そう思うと闘争心が燃え上がって、あら捜しをしたくなりました。
まずはベッドです。
寝心地が良く、小物も置けるようにヘッドボードの幅が広くとってあるなど、ベッドとしての評価は申し分ないのですが 、壁にもたれかかってテレビを見ようとすると、このヘッドボードが背中に当たり、せっかくの大画面を正面から楽しむためには、ベッドに寝そべるしかないのです。
であれば、テレビの角度をやや下向きに設置してあると見やすいのですが、壁に平行に取り付けてあるので、下から見上げる格好になってしまいます。
「モモレンジャーのスカートの中が覗けるかもしれない」と、テレビ画面を下から見上げた、子どもの頃の記憶がよみがえります。
純真な少年の期待はあっさり裏切られました。
目が疲れるだけで、テレビを下から見上げることのメリットはありません。
テレビ・ベッドのそれぞれの機能は素晴らしいのですが、組み合わせると何となく不調和なのです。
この窓も危険です。
分別廃棄できるよう、せっかく2個のごみ箱が用意されているのですが、ごみの種類表示がほとんど見えません。
これも、実際に置かれる状況をシュミレーションせず、机上でデザインした結果でしょうか。
いろいろあら捜しをしながらテレビ画面に目を移すと、何と、画面上のインフォメーションに、館内案内や近隣情報などと共に、アンケートの項目があるではないですか。
失礼しました。
謙虚な気持ちで改めて室内を見渡すと、細かな部分まで配慮が行き届いた設備が目に入ってきます。
例えば、このハンガー。
ホテルによっては隣室から、ガツンという雑音が聞こえてくることがあります。
服を外すときハンガーかスイングして、壁に当たる音です。
アパホテルでは、ハンガーを掛けるバーが壁まで26cm あり、壁にハンガーがぶつかることはありません。
縦に収納することで、スペースを生み出す」という工夫がいたるところに見られます。
(左) 最近のビジネスホテルは空っぽの冷蔵庫が主流で、コンセントを抜いてあるところも多いです。アパホテルではスイッチを外付けしてあるので、コンセントを抜き差しせずに、指先一つでオンオフできます。
(右) 煙除けの防災グッズが、クリップで壁にぶら下げてあります。これも「見せる、縦の収納」 いざという時、すぐに使用できます。さらに、この防災グッズをフロントで販売しているという、ちゃっかりぶりです。
この筆記具セットもスグレモノでした。斜めにすっぽりとボールペンを収納、ケースに入れた切り込みは、メモ用紙をめくり取るため。
半透かしのシャワーカーテンは、閉めても密閉間がありません。光は通しても、ポリエステル100%の生地は、水をシャットアウトします。防炎機能も備えています。
ヒッチコック監督が手がけたスリラー・サスペンス映画『サイコ』、ジャネット・リーがシャワーを浴びている最中に刺されますが、このシャワーカーテンだったら、殺人鬼の存在を察知できたかもしれません。
ちなみに、映画史上最も記憶に残る瞬間と言っても過言ではない、この衝撃的なシャワーシーン、わずか45秒の長さでありながら、78台のカメラを設置し、52カットで構成されているそうです。
実際にジャネット・リーが刺されているショットはないのですが、断片的なシーンを組み合わせたモンタージュ、すばやいカットやナイフのクローズアップは、刺されるのを見ているかのような錯覚を観客に与えます。
おっと、映画の話ではありません。
(左) イラスト付きでわかりやすいボトル。コンディショナーをシャンプーと間違えて、「泡が立たない」と立腹することもありません。
(右) よく見るとバスタブの排水口のキャップに、ネジを生かしたユニークなデザイン。
朝食はいたってオーソドックス。
ぐっすり眠って気持ち良く目覚めた朝、せっかくですのでベッドに寝ころび、VODを観ました。
選んだ作品は韓国映画の「新感染」(2016年)。
別居中の妻がいるプサンへ、幼い娘スアンを送り届けることになったファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)
夜明け前のソウル駅5時30分発、プサン行き特急列車KTX101号に乗り込みますが、生物を食人鬼に変貌させるウイルスが蔓延、車内はゾンビが徘徊する修羅場と化します。
娘と別車輌になってしまったソグ、妻と離れ離れになった中年男性、ガールフレンドと分断された男子高校生、3人の男たちは最愛の人を守るべく、無数のゾンビに挑んでいく、というストーリー。
仕事で家庭を顧みなかった父が、ゾンビとの戦いを通じて子との絆を取り戻していきます。
登場人物のキャラクター設定がしっかりとしていて、娘と自分だけが助かろうとしていたソグが、他の乗客も守ろうと変化していく過程も印象的。
身籠った妻を連れた、マ・ドンソク(마동석) 演じる、一見粗野な中年男性。彼が見せる活躍と人間味も魅力的。
劇中、「胎名」という韓国の風習が出てきます。数え年で年齢を数えるなど、韓国では、赤ちゃんがお腹の中にいるときから人として扱う意識が強いようで、胎児にも一時的な名前をつけるそうです。
身籠った妻が「胎名はつけたけど、本名は考えてないのよ」と、ドンソク演じる夫をなじる場面がありますが、物語の後半、これに応える彼のセリフがまた、泣かせます。
このように、冒頭でまかれた些細なエピソードの数々が、感動的なドラマとして結実する展開。脚本が練り込まれています。
ゾンビ物のジャンルを超えた人間愛の物語に、不覚にも涙し、「Air Relax」の枕をぐしょぐしょに濡らしてしまいました。
舞台となる「KTX」は、2004年に誕生した韓国の超高速鉄道。
2018年の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックにあわせて開通した江陵線(カンヌンソン)に続き、2020年は東海線(トンへソン)が延長開通。さらに、2021年にはソウルと安東を結ぶ中央線(チュンアンソン)が開通と、年々路線が拡大しています。
映画の冒頭、トラックが検疫を受けるシーンでは、高速道路のインターチェンジ名に「진양 (jinyang)」 という文字が見えます。
のどかな田園と低山が広がる、日本の農村にも似た風景で親近感を覚えたので、ネットで調べてみました。
チニャンという村は、慶尚北道 醴泉郡 普門面 に実在するのですが、インターチェンジの存在は確認できません。
機会あれば韓国の方に、実際を訊いてみたいものです。韓国に行く口実が、一つ増えました。
KTX時刻表を調べると、列車番号こそ違え「5時30分 ソウル発 プサン行き」という列車は、実際に運行していました (2021年8月現在)。
韓国の地図に、時刻表と映画のストーリーを重ねてみました。
東海道新幹線「ひかり」の運行時刻に例えれば、ソウル駅が東京駅、テジョン駅が静岡駅、トンテグ駅が名古屋駅、プサン駅が京都駅といったところでしょうか。
映画の原題「부산행」を直訳すれば「釜山行き」、英語版はそのまま「Train to Busan」ですが、邦題は「新幹線」に引っ掛けた「新感染」に決定されました。
実際にはKTXのベースとなったのは新幹線ではなく、フランスの「TGV」。
頻繁に進行方向が変わるヨーロッパの車両は、車両内部の前後で座席が対面しているタイプが多く、KTXも初期はこのタイプを採用していました。
しかし、座席が回転しない固定式であり、韓国の地形には馴染まなかったため、最近の車両は回転式座席が採用されています。
また、劇場公開時点ですでに廃止されていた、東大邱駅発着の長距離列車「セマウル号」が見られるなど、鉄道マニアならではの楽しみ方もあるようです。