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「王宮の丘」に向かったつもりが、「英雄広場」に着いてしまったブダペスト市内観光。

「ルームオペラ」のオーナー・榎本さんが冷蔵庫に用意しておいてくれた朝食を頂いた後、オペラ座付近の観光スポット「国会議事堂」「イシュトバーン大聖堂」を徒歩で巡る。雨が降ったり止んだりして、何やら波乱含みの予感がする。

街角では焼き栗の屋台

昼食を早目に済ませ、ブダペスト観光のハイライト、ドナウ川対岸に見える「王宮の丘」「マーチャーシュ教会」をめざす。デアーク広場のバス停で、乗るべきバスを係員に尋ねると「16」との返事。と、16番の表示を掲げたバスが停留所に滑り込んで来るや、プシューッと威勢の良い音を立てて我々の目の前で停車した。

タイミングよくバスに乗車できた私たちは上機嫌だった。「ブダペストの交通システム、恐れるに足らず」と、不敵にほくそ笑んだのもつかの間、上さんが「どうも方向がおかしい」と警戒の色を強め始める。

はたしてバスは、ドナウ川を渡ることなく広場に到着。終点らしく、乗客はドヤドヤと全員降りてしまった。仕方なく我々も降車すると、見上げるばかりの塔がそびえている。

そこは、ハンガリー建国1000年を記念して1896年に建てられた、ブダペスト最大の広場「英雄広場」だった。大天使ガブリエルを頂く高さ35mの塔の台座には、マジャール族の部族長たちの騎馬像がぐるりと並び、ハンガリーの祖先が遊牧民族だったことを物語る。昨日まで慣れ親しんだ、ポーランド人の透き通るような白い肌とはまた異なり、ハンガリーの人々の顔立ちはどことなく日本人の面影が感じられ、親近感を覚える。

午後に訪れる予定だった「西洋美術館」は英雄広場から近いので、徒歩で向かう。美術館の窓口でチケットを買おうとすると、何やら聞き返される。「大人一枚」とだけ告げて安心していられない。常設展のみ見学できる「パーマネントチケット」と、企画展も入場可能な「コンバインドチケット」の二種類があるようだ。よほど時間に余裕がある場合以外は、パーマネントチケットで充分だろう。何しろ、ラファエロ、レンブラント、ヴェラスケス、ゴヤなど、名だたる巨匠たちの作品を常設しているのだから。

美術館を出て、本来ならば先に行くはずだった「王宮の丘」に向かうのだが、路線バスを乗りこなすのは難しそうなので、地下鉄で「モスクワ広場」に出てから、王宮の丘を巡回しているシャトルバス「城バス」に乗ることにした。

交通の要衝 モスクワ広場 :「城バス」乗り場からトラム停留所を見下ろす。地下にはブダペスト地下鉄2号線のセール・カールマーン広場駅が存在している。

「『16番バスに乗れ』だなんて、従業員も運行路線をよくわかってないんだね。まあ、のんびりとしたお国柄だね」などと、したり顔で話している我々の鼻先を、16番のバスがドナウ川方面に向かって軽やかに走り抜けて行った。どうやら、「王宮の丘」と「英雄広場」をピストン運行しているようだ。我々は逆方向に向かう16番バスに乗ってしまったようだ。不覚であった。

「王宮の丘」「マーチャーシュ教会」は、モンゴル来襲から逃れてきた国王ベーラ4世により、13世紀半ばに造られた。その後のトルコ占領、ハプスブルク家支配という流れの中で、それぞれの時代を反映した建築様式で改築されている。

教会の庭にある「漁夫の砦」は、対岸に広がるペスト地区とドナウ川を一望できる、絶好のビューポイントとなっている。ドナウ川はドイツ南西部シュヴァルツバルトの東部に発し、オーストリア、ハンバーガー、バルカン諸国を流れて黒海に注ぐ、長さ2860mの大河だ。たゆとう流れを、この場所から歴代の王たちは、どんな思い抱いて眺めていたのだろう。私は職業柄、国をまたがる河川をどのように管理しているのか、気になって仕方がなかった。

 

ブダの丘を楽しんだ後は、地下鉄で再びペスト地区の「中央市場」を目指す。

ブダペストでは新たな地下鉄を建設中で、東駅からドナウ川を横断してゲッレールト広場を経由する路線が、2010年に完成するらしい。現在の3路線はデアーク広場駅で交差しており、他の路線に乗り換え可能なのだが、乗り換えのたびに270Ftの一回券が必要になる。かといって、開閉式の自動改札ゲートがあるわけではなく、柱に取り付けられた黄色い改札機に切符を差し込んで、自分で刻印する仕組みだ。

私たちは10枚2350Ftの回数券を利用していたが、瞬く間に減っていくので「乗り換えのときくらい、いいじゃない」という気持ちで、改札をしないまま通過するようになった。時代劇で100万回は使い古された、越後屋と悪代官のセリフ「お互い悪よのぉー」的な精神状態で、デアーク広場駅の乗り換え階段を素通りした。

しかし、カルビン広場駅で降車して出口に向かうと、黒い制服に身を包んだ検札官が立っており「切符を見せろ」と呼び止められた。私たちは一斉に「ワタシ、ワカリマセン」的な集団になり、あれほどハンガリー語を駆使して道を尋ねていた上さんは、英訳さえ全く分からない風を装い、お互い顔を見合わせるばかりだった。

だが検札官は容赦なく罰金一人8000Ftの支払いを通告し、私たちは泣く泣くそれに従がざるをえなかった。うなだれて出口の階段を上りながら「今度声を掛けられたら、一人を残して他の者は聞こえないふりをして立ち去り、あとで罰金を三等分すれば痛手は少ない」などと話し合った。懲りない連中である。

翌日、やはり捕まっている外国人観光客を見かけたが、猛然と抗議して検札官につかみかからんばかりだった。素直に応じた私たちは、マナーのいい犯罪者といえるのかもしれない。ただ、検札官は一人で、領収書もくれなかったので、罰金額は適正だったのか、本当に納付されたのか、ちょっと疑惑が残る事件ではあった。

スペインはバルセロナ、ランブランス通りのサン・ジョセップ市場に迷い込んだ時のこと。市場の活気と、積み上げられた魚の迫力に圧倒されて、スタンドのサングリアを何杯もおかわりしながら、半日を過ごしたことがあった。「すべての魚は美しい。すべての星のように」と記したのは、アマゾン釣り紀行「オーパ」の著者・開高健だが、銀色に輝く様々な種類の魚は見飽きることがない。

以来、各地を旅行するたび、市場に立ち寄るのが楽しみの一つになった。ギリシャはアテネ、アティナス通りの市場では、あちこちの店員たちが、肉のブロックを指さしながら買って行け、としつこく声をかけるので閉口しながら「I’m tourist」と断った覚えがある。宿に帰ってから鏡に映った自分の姿を見ると、鼻の下にチョビ髭を生やし、薄汚れたキャンバス生地のバックを抱えた姿は、食材を買い出しに来た中華料理屋のオヤジそのもので、店員たちがしきりに声をかけた理由に納得したものだ。

ここブダペスト、自由橋のたもとに位置する「中央市場」は、ブダペスト最大の常設市場で、1階には青果店や肉屋などがずらりと並んでいる。

袋詰めされていないカラフルな野菜や果物が生き生きと並び、みずみずしい香りがあふれんばかり。

 

その場で買ったみかんを頬張りながら見回すと、トカイワインを取り揃えた酒店や粉末パプリカの専門店もあり、お土産を買うにはうってつけの場所だ。しかも安い。トカイアスーのナンバー5が3690Ftで売られている。

2階には軽食スタンドや革製品を扱う店が軒を連ね、安価で質の良いバッグが多数あったので、旅行の最終日に再度立ち寄って、お土産の買い出しをすることにした。ところが、この目論見は夢と消えてしまう。(11/1で後述)

市場の地下に魚売り場を見つけたが、ごく小さなスペースで、扱っている魚も鯉などの淡水魚がほとんどだ。ハンガリー独特の料理として、魚ベースのハラースレーがある。特にバラトン湖周辺が有名な、このスープは鯉やナマズの切り身を材料としており、内陸国ハンガリーならではの料理だ。国独自の食文化を反映している市場は、やはり見ていて飽きることがない。

パプリカたっぷりのグヤーシュスープ>>>
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