入国管理事務所の列で手渡された「コルンバ・ホステル」のパンフレットには、朝食付きと書いてあったのだが、キッチンのシンクには、オーナーたちが使ったらしい汚れた食器が突っ込まれたままで、ヤカン一つ見当たらない。
せめて熱いブラジルコーヒーの一杯でも、と思ったのだが諦めて、チェックアウトの手続きをする。相変わらずフロントに人影はなく、大声で呼んでいるうち赤ん坊を抱いた女性が出てきた。
パンフレットを見せて朝食の件にクレームをつけたら、40BRL(1450円)の宿泊代が30BRLに割り引かれた。
バスターミナルに着いて、トイレを利用した時のことである。洗面台で手を洗ってトイレを出る時、すれ違いに三人の男が入って来た。男の一人が発した「Give me your passport (パスポートをよこせ)」という低く、くぐもった声を背中に聞いた。
振り返ってはいけないような気がしてそのまま出て、遠巻きにトイレの入口にチラチラ視線を送っていると、一人の男性がトイレに入ろうとしてドアを開いた。瞬間、ギョッとしたような態度でドアを閉めると、回れ右をして立ち去ってしまった。
しばらくすると何事もなかったかのように人々が出入りするようになったので、男たちは裏口からでも出たのだろうか。
警察の捜査なのか、白昼堂々と麻薬取引でも行っていたのか真相は不明だが、ここは南米、常に犯罪の危険と隣り合わせなのだ、と気を引き締めさせられた一件であった。
バスの発車時刻は11:30なのだが、12:00をかなり回った頃、ようやくサンパウロというアナウンスがあり、改札が始まった。バスが入線して荷物をラゲッジスペースに積み込もうとすると、サンパウロかリオデジャネイロかを聞かれる。終点はリオデジャネイロのようだ。乗り越さないようにしないといけない。
定刻を一時間遅れの12:30に出発。
出発から三時間近くが経過して、ちょうど映画が終了する頃、ドライブインに到着して休憩。建物に入ると、入口で手のひらサイズのプラスチックボードを渡される。店内のレストランや売店で購入した商品はすべてこのカードに記録され、出口で一括精算される仕組み。
昨日までのボリビアのバス旅と比べると、浦島太郎のような気分。