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ポーランドからハンガリーへ、九時間半の列車旅

ポーランドからハンガリーへ、九時間半の列車旅

今日はポーランドに別れを告げる日。ハンガリー・ブダペスト行き列車の発車時刻は正午なので、午前中をクラクフ市内観光に充てることとし、カジュミエール地区に向かう。
この地区は映画「シンドラーのリスト」の舞台にもなったユダヤ人ゲットーのあった場所で、ポーランド最古のユダヤ教会「スタラ・シナゴーク」などがある。
8番のトラムで行けるらしいのだが、ヴァルシャウスキホテルのトラム乗り場には、いくつものプラットホームが点在し、お目当ての乗り場を見つけるのに一苦労する。ようやく8番トラムに乗り込むものの、今度は降車する場所がわからない。車窓から街並みを眺めながら、それらしい場所で「えいやっ」と降りることになる。
ガイドブックにも詳細が載っていないトラムや路線バスを乗りこなしてこそ、旅のエキスパートといえるのだろう。
トラムを降りた場所にちょうどカフェが開いていたので、パンとコーヒーで朝食とする。ポーランド語でコーヒーは「カヴァ(kawa)」というが、注文すると必ず「チャルナ(czarna=黒)、ビャゥラ(biala)どちら?」と訊かれる。ビャゥラはミルクたっぷりのカフェオレ風。
海外旅行でメニューの内容がわからない時、とりあえずコーヒーを頼めば間違いないだろうと注文するが、店員から何やら聞き返されるので、油断ならない。
ロスアンゼルスを訪れた時のこと。ハンバーガーなら一言で注文できるだろうと思ったのが大間違い、具やドレッシング、焼き方まで事細かに聞き返されて途方に暮れたことがある。
朝食を終えて訪れたカジュミエーシュ地区。立ち並ぶ建物のレンガは、オレンジ色が黒っぽくすすけ、独特の雰囲気が漂っている。ところどころタイルの剥がれ落ちた壁が郷愁をそそる。
篠さんと私が、フラフラと民家の庭に入り込んでは記念撮影をし、それを上さんがたしなめながら先を急がせるという、いつもながらの光景を展開しながら散策した後、旧市街へと戻る。
次に訪れたのはチャルトリスキ美術館。ダ・ヴィンチの「白テンを抱く女」を所蔵していることで有名だ。建物の前で待つことしばし。開館時刻の10時をまわるも、いっこうに扉は開く気配がない。入り口は別にあるのかと、隣の建物の扉を開いてみるとそこは教会で、参列者からいぶかしげな視線を一斉に浴びてしまった。
絵画を売っている露天商に尋ねると、美術館は道を隔てて反対側とのこと。重厚な木製の扉だったのでてっきり美術館かと思ったのだが、まったく関係のない建物だったようだ。
美術館を出てクラクフ駅に向かう道すがら、織物会館近くの通りはストリートアーチストたちで賑わっている。笑顔を強調した作風の画家に、私たちの似顔絵を描いてもらうことにした。通行人がワサワサと寄ってきて、我々の顔と画用紙を見比べては、何やら笑いながら話している。楽しいひと時だった。

クラクフ駅に着いてブダペスト行きの列車に乗り込み指定席を探すと、我々のものであるはずの席に若い女性が座っていた。彼女は「駅員のミスで間違って発券された」みたいなことを言いながら、「皆で仲良く行きましょう、アハハ」などと意味のない豪傑笑いをぶちかまし、どっかと腰を下ろしたままだった。たしかに席は足りるので、我々三人は彼女ともう一人の中年女性と一緒に、六人掛けのコンパートメントに収まった。
「私の名前はアニャ」と自己紹介する彼女は、昔の西部劇ならさしずめ「じゃじゃ馬」の役柄で出てきそうな女の子で、たどたどしい英語を操りながら、気さくに話しかけてくる。「英語の勉強になるから」と積極的な彼女だが、我々の言うことがわからない時は「I don’t understand」とキッパリ答える。
私などは意味がわからなくても曖昧に「yes」と答えがちなので、見習おうと思う。
アニャは彼氏に会うため、ブダペストに向かうとのこと。私たちか゜朝食を摂りにダイナーに向かうと、彼女もトコトコついて来た。
「お腹は空いてないから」と言う彼女は、「飲み物はどう?」という私たちの勧めも断り、「日本語は難しい?」などと次々に質問を発してくる。そんな彼女に、当て字で「アニャ」という漢字を教えたりしていると、他に客がいなくて暇なのか、時おりウェイターも話に加わってくる。
メニューを読むとき、チェーンで首からぶら下げた老眼鏡を、鼻にちょこんと乗せる仕草が人なつこい、彼もまた陽気な男だ。西部劇ならさしずめ、腕は確かだが普段は飲んだくれのドクターといった役どころか。篠さんは彼と妙に波長が合ってしまい、その後ブダペストまでの道中ずっと、「水を買ってくる」などと口実をつけては、彼と逢引していた。
食事を終えて客車に戻ると上さんは、善光寺の仲見世で買ってきた浮世絵をアニャにプレゼントした。彼女の顔がぱっと輝き、アニャは上さんに抱きついた。無邪気な彼女の存在がなかったら、長時間移動の車中、私たちのアゴは伸びきってしまったことだろう。
21時30分、ブダペスト・ケレティ駅(東駅)に到着。迎えの彼氏と抱き合うアニャの眼に、我々の姿はもう入らない。
駅の構内、列車を背にして右手にATMを発見。市街地の両替所はもう閉じているだろうから、交通費など当座の現金3000Ftをキャッシングする。(1Ft=0.501円)
鉄道駅を出て左に回り込むとメトロの入り口があり、我々は2号線に乗車。デアーク広場で3号線に乗り換え、オペラ駅で下車。
ブダペスト滞在中の宿「ルームオペラ」は、榎本さんという日本人女性が経営する宿で、上さんが日本からメールで予約済みだ。オペラ座の近くに位置するらしいのだが、すでに通りは暗く静まり返り、住民や通行人に尋ねることもできない。
ウロウロしていると突然、「上田さんですか?」と声をかけられた。榎本さんが、ハンガリー人のだんなさんと一緒に、わざわざ迎えに来てくれていた。
案内された「ルームオペラ」は普通の住宅で、通りから一見しただけではそれとはわからず、迎えがなければ見つけることはできなかったろう。中庭を囲むロの字型に建てられたアパートの一室を、榎本さんがルームレンタルとして活用しているようだ。
玄関を入ると両側に一部屋づつのレイアウト。予約したのは一部屋だけだったが、もう一室も空いているとのことなので、追加料金を支払って二部屋を利用することにした。
部屋は十分な広さで、シンプルかつ機能的。バスタブも付いている。ただ、昨年のクロアチアでもそうだったが、お湯はタンクに貯めた水を電気で沸かすシステムなので、タンクが空になると再び沸くまでに時間がかかる。風呂は夜と朝に分けて使うなどの工夫が必要だ。

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