見たいな「ブルガリア三大祭り」、食べたいな「パニツァ」に「ミシュマシュ」

見たいな「ブルガリア三大祭り」、食べたいな「パニツァ」に「ミシュマシュ」

月例のワイン会、今回はブルガリア特集です。ワイン片手に、ブルガリアに関する知識を拡げました。

681年に建国された第一次ブルガリア帝国は、11世紀初めにビザンティン帝国との戦いに敗れますが、再び1185年に第二次ブルガリア帝国を築きます。しかし、モンゴル西進による打撃を受け衰退、1393年にオスマントルコの侵略で滅亡してしまいます。
その後500年近くオスマントルコの支配下に置かれた末、露土戦争でロシア帝国が1878年に勝利したことで、ブルガリアは自治国として独立(大ブルガリア公国)しますが、実際の処はロシアの保護国でした。この時期に制定された国旗、革命委員会がロシア帝国に敬意を払ったデザインらしいですが…まんますぎでは?


ブルガリアの国名は、トルコ系とスラブ系の混血民族「ブガール人」に由来していると言われ、ブガールは「ポルガ下流域から来た人」を意味します。

1908年、オスマン帝国で青年トルコ人革命が勃発したことに乗じてブルガリアは独立を宣言、ブルガリア王国が成立。
1944年、ソ連の侵攻を受け、王政が廃止され共和制が成立。ブルガリア人民共和国としてソ連の衛星国家に。

こうした歴史を持つブルガリアですが、大陸性気候・地中海性気候の影響を受けるブドウ栽培に適した土地であり、ワイン作りは数千年といわれる長い歴史を持ち、ビールやラキヤ(発酵させた果実から作られる蒸留酒)とともに、ワイルはブルガリアで最も飲まれているアルコール飲料です。
1980年代には世界第4位のワイン輸出国でしたが、1989年の共産党政権崩壊以降、産業が衰退してしまいます。しかし、2007年のEU加盟をきっかけに経済が潤い、高名なコンサルティングが入ってきた影響を受け、ブティックワイナリーが増加しました。
ワインの産地は5地域に大別されます。

① ドナウ平原 (北ブルガリア)
湿潤大陸性気候で夏暑く、年間を通して晴天が多い。典型的なワインスタイルはマスカット、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ、および地域品種のガムザを使います。
プレヴェン市のワインミュージアム(музей на виното)には、近郊から出土した2~3世紀頃のワインに関する道具や写真が展示してあります。

② 黒海 (東ブルガリア)
長く穏やかな秋に特徴付けられ、糖分の蓄積に最適な気候条件を備えており、良質な白ワインを生産する。ワインスタイルは、ディミャート、リースリング、マスカット・オットネル、ユニ・ブラン。

③ バラの谷 (下バルカン)
ワインスタイルはマスカット、リースリング、ルカツィテリなどで、ドライの白ワインが主流。
毎年5月下旬~6月上旬には各地で「バラ祭り」が開かれ、「ブルガリア三大祭り」の一つに数えられます。カザンクラ市で行われるものが最も有名。

④ トラキア低地 (南ブルガリア)
バルカン山脈がロシア平原から吹き抜ける寒い風をブロックし、マリツァ川流域の渓谷は地中海性気候に覆われ、穏やかで雨の多い冬と暖かく乾燥した夏は、良質な赤ワインを生み出します。メルローやカベルネ・ソーヴィニヨン、マスカットの他、有名な地産ブドウ品種のマヴルッドも栽培されています。

このマヴルッドを30%の比率でカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドした「メゼック カベルネ・ソーヴィニヨン マヴルッド」という商品(2,538 円)について、「個性溢れるブルガリアの味わい。驚くほどにシルキーで口当たりの良い、エレガントなテイストに仕上がっています。『心を震わせるワインに出会いたい』と、近頃刺激が足りていないと嘆く方に、特に飲んでほしい1本。『ブドウの神様の生誕地』で生まれたワイン、ぜひアナタの五感で感じ取ってみてください」と宣伝しているサイトがありました。そそられます。

「ブドウの神様の生誕地」というくだりは、ギリシア神話の酒神ディオニソス(ローマ神話ではバッカス)は、ギリシャとの国境であるこの地トラキアで崇められていた神が起源、という説によります。

⑤ ストルマ川渓谷 (南西ブルガリア)
マケドニアの歴史的地域にあるストルマ川の谷で、面積は小さいが南から地中海の強い影響を受け、気候的に非常に明確で特徴的。ワインスタイルは、メルニック、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど。

さて、ブルガリアといえばヨーグルト。その発祥地はトルコという説もありますが、(ヨーグルトは「攪拌する」という意味のトルコ語「ヨウルト(yoğurt)」に由来)、ブルガリア最古の民族・古代トラキア人がすでにヨーグルトを作っていたことは確かなようです。

1908年にノーベル医学賞を受賞したロシアのメチニコフ博士がブルガリアを旅した際、山間部の農村でヨーグルトを常食としていること、お年寄りがいきいきしていることに着目。「ヨーグルトは長寿に効果がある」という学説を発表したことで、ブルガリアにヨーグルトのイメージが定着しました。日本では、明治乳業のCMによるところが大きいでしょうか。

実際、1994年の古い統計ですが、1人当たりのヨーグルト年間消費量はブルガリアが約32kgで、日本の約6倍とのことです。ちなみに日本国内での消費量ランキング(2014年)は、宮城県が1位だそうです。

ブルガリア北東に位置するラズグラド市では、2001年から毎年7月下旬に「ヨーグルトフェア」が開催され、今では「ブルガリア三大祭り」の一つになりました。期間中はブルガリア伝統料理の試食をはじめ、ヨーグルト女王の選出や自家製ヨーグルトのコンテストなど、幅広いイベントが企画されます。

ところで、お釈迦様が死の直前に説いたとされる「大般涅槃教」には、「牛より乳を取り、乳より酪をだし、酪より生蘇をだし、生蘇より熱蘇をだし、熱蘇より醍醐を出す、醍醐は最上のものである」という記述があり、最高の味を指す「醍醐味」の語源とされますが、「蘇」はバターのようなもの、「醍醐」は発酵乳だったと考えられています。

パイ生地にヨーグルトやシレネチーズ(チーズの塩漬け。ギリシャのフェタチーズも、羊・山羊の乳から作ったチーズを食塩水中で熟成させたもの)を練り込んで焼いた「パニツァ」は、ブルガリアのポピュラーな朝食。ほうれん草やカボチャを混ぜることもあります。
きゅうりとにんにく、オリーブオイルで作るヨーグルトサラダは「スネジャンカ」。日本語に訳すと白雪姫、美容にいいサラダなのでしょう。


挽き肉と野菜を炒めてからオーブンで焼く「ムサカ」も、仕上げにヨーグルト・タマゴ・小麦粉で焼き色をつけます。
玉ねぎやピーマン・トマトなどのみじん切りと卵・シレネチーズを炒めたブルガリア風スクランブルエッグ「ミシュマシュ」は、「ぐちゃまぜ」の意味。

そして「ブルガリア3大祭り」のあと一つは「クケリ」。1月から3月にかけて各地で行われる伝統行事です。化け物のような衣装を着た男たちが騒々しく村を練り歩き、各家に入り込んでは荒々しく踊りまわって悪霊を追い払い、家の主人は彼らにワインや食べ物を振舞うという、秋田県の「なまはげ」みたいな祭り。

ブルガリアで3月1日は春の訪れを祝う祝日。赤と白の糸で作った「マルテニツァ」という飾りを親しい人と交換して、互いの幸福を願います。身に着けたマルテニツァは、春を告げるコウノトリかツバメを見かけたら願い事をしてはずし、花が咲いている実がつく木の枝に結びます。

5月6日は「聖ゲオルギの日」の祝日。聖ゲオルギ(英語では聖ジョージ)は、キリスト教における聖人の1人で、農業・羊を守り、豊穣をもたらす春の水を運ぶとされています。農業国ブルガリアでは人気の高い聖人で、男性ならゲナジ、ガンチョ、ガリン、女性ならゲルガーナなど、彼にあやかって命名されたブルガリア人が数多くいます。
農業の行事がスタートするこの日、ゲオルギに祈りを捧げる意味で、子羊の丸焼きを食べてお祝いします。やはりヨーグルトが必ず食卓にのぼります。

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