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「頭がいいってこういうことを言うんだな」と分かる物語 (柔軟な発想編)

「大久保さんじゃないすか。こんなとこで何してるんすか」

ホームセンター「ムサシ」で、キョロキョロと不審な行動をとっているところを突然、声をかけられた。
振り返ると、昔の職場の同僚だったサトルさんの、昔と変わらぬ笑顔。

「いやぁ、久し振り。
実は飲食店を再開しようと思ってさ、空き店舗を借りたのはいいんだけど、厨房の手洗い器の配管途中に分岐栓があって、元栓を開けると水が噴き出しちゃうんだよ」

前の経営者が、たぶん製氷機なのでしょう、設置するにあたり、手洗い器の配管から分岐させ、製氷機への給水管を取り付けたようなのです。

ところが撤退のとき、給水管をぶった切って製氷機だけ持ち去ったため、手洗い器の元栓を開けると、天井から垂れ下がった給水管が、消防車の放水ホース状態になってしまうのです。

おそらく保健所の検査を通すため、手洗い器も後付けしたものらしく、手洗い器給水管と本管の分岐に止水栓が付いていたため、この栓を閉めておけば何事も起こらないのですが…。

当然、手洗い器からも水が出ないので、これでは保健所の検査が通りません。

製氷機への給水分岐にも、止水栓を取り付けてくれれば良かったのですが…。

「分岐栓がどうしてもはずれないので、この際、パテみたいなものを埋め込んで止水しようと思ってさ、何かないかと探しに来たんだよ」と私。

サトルさん答えていわく、「そんなことしたら、保健所検査の最中に水が噴き出しますよ。蛇口を付けたらいいじゃないですか」

「それが、分岐栓のネジ山が、どうしても蛇口のネジ山に合わないんだよ」

彼は建築の専門家で、猛勉強の末に1級建築士の資格も取得している。

勉強に忙しい中、10歳も年上の私に付き合ってよく遊んでいただいた。

彼もまたモーグル好きで、八方尾根のコブで共に撃沈したり、当時、立て続けに出演作が続いた、ブラッド・ピットや ケヴィン・スペイシーのDVDを一緒に観たものだ。

「15分間のことしか記憶できない男が、妻を殺した犯人を追うミステリー、なんて言ったっけ、あれ…」

「『メメント』のことですね。『手弁当』と覚えればいいんですよ」

「知ってましたか。『ターミネーター』でリンダ・ハミルトンが友人の死を知らされた時、『信じられへん』って言ってるんですよ」

そんな、楽しかった会話の断片が甦る。

ムサシ店内の水栓売場でしばし、思案した彼は「ガーデニングなんかで、ホースの先に取り付けて使う、散水用のシャワーヘッドあるでしょう。あれ、接続したらどうですか。口径は12mmなので、ネジ山にも合うはずですし、ヘッドを常に閉栓状態にしておけば、水は止まっていると思いますよ」と提案した。

「そんなに上手くいくかなあ」と半信半疑ながら、数百円でシャワーヘッドを買いました。

店に戻って早速、取り付け作業にかかります。

剪定ばさみで強引に給水管をカット、管の切断面が斜めになりましたが、「まぁいいや」とシャワーヘッドを取り付けます。

しかし、継ぎ目からポタポタと漏水。

再度、給水管をノコギリで直線にカットしてから、シャワーヘッドの奥までネジ山を差し込んでみると…

ピタッと見事に、水が止まったのです。

おかげで、明後日に受けることになる保健所の検査も、無事に通過しました。

彼に感謝するとともに、型にとらわれない柔軟な発想に、「頭がいいって、こういうことを言うんだな」と感服した次第です。

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