「病気をよせつけない生き方」安保徹

安保徹 (アボトオル・1947年 青森県三厩村出まれ。東北大学医学部卒業。新潟大学教授) と、ひろさちや (1936年 大阪生まれ。東京大学文学部哲学科大学院修了。宗教思想家) の共著。

 

病気の原因について筆者は、「人間の身体は、あちこち壊れるような設計図になっていない。生き方の無理が自律神経の働きを偏らせ、その結果として病気が発症する」と語ります。

「生き方の無理」とは、「もっともっと豊かになろうと、頑張る生き方」とし、「思いのままにならないことを思いのままにしようとするから『苦』が生まれるのであって、思うがままにならないものを受け入れる、滅びゆくものは滅びゆくままに任せる」という、仏教でいうところの「小欲知足」の考え方が大切、と主張します。

 

癌に対しても、「毒物など外からの刺激が発症の引き金になることは少なく、過酷な生き方で生み出される活性酸素など、老廃物が溜まって発癌する」との考え方を示し、「生き方の誤りが原因、そこに気付くことが重要」と強調。

「免疫系がしっかり働けば、癌は退縮する」と指摘、「その場合、癌はそれまでの道筋を逆戻りして、潰瘍やポリープになって消えていく、あるいは散らばって (転移して) 消える」と説明します。

どうしたら、そうなるのか?

「熊に突然遭遇したとき、戦うのか、逃げるのか、覚悟を決めるとストレスレベルが下がる」との例を引き合いに、「癌が退縮する人は、心が吹っ切れている。『他人の言動に左右されてきたが、これからは自分のために生きていこう』とか、病気が治ってから人生をやり直そうではなく、病人としての人生を送る決意をするなど、新しい人生が始まる感覚を持って取り組むこと」が重要として、「ひたすら怯え続けている人は、決して治りません」

「病気にならなければ、見えないものもある」など、「楽天的な考え方が病気を回復させる大きな力になる」とも。

老いに対しても、「老いることは、仏に近づくこと。死は、仏から預かった命をお返しすること。老化は自然なことであり、良いことでも悪いことでもない」と考える。

引きこもりだったら、「せっかく引きこもりになったのだから、もう少し続けてみよう。そのうち、地球を汚さなかったと、表彰されるかもしれない」

 

こうした考え方は「モンスーン地域の宗教観に由来する」と分析、「自然の力で生かされているという、『全体学』に基づく哲学の思想」と表現。

逆に「砂漠の宗教観」は、「厳しい環境の中で戦って勝利する、という思想で、『分化』によって科学が発展する」

しかし、「現代は砂漠の宗教観に偏りすぎ」と苦言、「弱者を隔離する施策ばかりで、年寄りや病人との共生の考えのかけらもない。もともと『ホスピタル』とは、家族がいない人のためのものだった。病院に入れるということは、家族との縁を切る、ということ」と断じる。

医療現場については、「闘病の思想ばかり。治すことが目的で患部だけに目を奪われ、人格が無視されている」として、「ある幼児の小児喘息の原因は、母親の注意を惹くために咳込むことにもあった」との症例を挙げて、「病気の原因は発病の前にある。じっくり患者の生活状態や人間関係について尋ねてくれる医者が好ましい」

それゆえ、「自分の治療を受け入れないなら面倒みない、と言うような身勝手な医者とは、さっさと縁を切るべき」

 

病気に向き合う姿勢として、「ただ薬を飲むということでは病気は治らないし、なぜ私が、と思ってしまうと、辛さがさらに倍増する」と指摘、「痛みに対して、湿布薬に頼って一時しのぎするのではなく、体を温めたり筋力をつけることで脱却する。前立腺肥大だったら、何で肥大するかをまず考える。無理な生き方をして分泌現象が抑制された結果、排泄物が停滞して血流障害が起きることで腫れるわけです」

 

歴史的には、「昭和40年代、癌が自然退縮する研究が進められた。結核で発熱するのは、38°~39°Cでリンパ球が最大限に働くからだが、この結核菌の毒性を弱めつつ、リンパ球の活性を残した『丸山ワクチン』が、癌の免疫療法として開発された。しかし、その後は抗癌剤開発の流れになってしまった」と振り返る。「抗癌剤は、骨髄・腸・皮膚・髪など、癌細胞よりも増殖が速いシステムを傷つけてしまう」

筆者は総括します「病気を遠ざけるには、身体を守る最強システムである免疫力を活かすべき」と。

 

交感神経・副交感神経の特徴

文中にたびたび登場する「自律神経」は、「交感神経系」と「副交感神経系」という2つの神経系で構成されます。近年は、「第2の脳」といわれ、腸管を支配する「壁内腸神経系」を含めることもあります。

交感神経系は「闘争と逃走の神経(英語ではFight and Flight)」と呼ばれるごとく、激しい活動中に活性化します。

副交感神経系は、神経伝達物質のアセチルコリンを放出することから「コリン作動性神経」とも呼ばれ、心身を鎮静状態に導きます。

本書では、両神経系の特徴を以下のように解説しています。

交感神経 副交感神経
緊張状態 無理をしたり心配事を抱えると緊張状態に。ステロイド剤の使用はますます緊張を高め、腰痛・関節炎を招く。 消化管を支配する神経。食べ続けることは脈拍・血圧・血糖を低下させ、無気力状態を招くことに。結果的に筋力も低下する。
天候との関係 高気圧時は血中酸素増、3000m級の山中では脈拍増など交感神経優位に働く 低気圧時は上昇気流で酸素が減り、副交感神経優位。沖縄に行くと気だるくなるのは、このせい。リンパ球の発熱反応で傷口や関節がうずくことも。
白血球細胞の反応 顆粒球増となり、過剰反応によって産出される活性酸素が粘膜を破壊すると、歯槽膿漏や胃潰瘍・大腸炎を引き起こす。上皮細胞や腺細胞が破壊されることで、増殖関連遺伝子が調節不能になった結果が癌。

活発に動き回る動物は傷を負って細菌が侵入する可能性が高いので、交感神経優位で顆粒球を増やしている。

食物中の異種蛋白やウィルスから消化器官を保護するため、リンパ球増となる。過剰反応すると抗原に対してアレルギー反応を起こす。

血管が開き過ぎると血圧が低下、組織液を血管に呼び込めなくなり、慢性疲労症候群となる。

一日の中では、「午前中は顆粒球優位、午後から夜にはリンパ球優位になる。人は自然のリズムに同調しながら、自律神経のバランスをとっている」と説明しています。

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