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南米旅行気分「モーターサイクルダイアリーズ」同行者はゲバラ

南米旅行気分「モーターサイクルダイアリーズ」同行者はゲバラ

医大生だった23歳のチェ・ゲバラが友人のアルベルトと、アルゼンチン・ブエノスアイレスからベネズエラ・カラカスまで、12,425kmを走破した模様を綴ったロードムービー。

「これは偉業の物語ではない。同じ大志と夢を持った2つの人生が、しばし併走した物語である」とゲバラ自身が回想しているとおり、そこにカリスマ革命家の姿はなく、冒険旅行で様々なハプニングに出会う、ごく普通の若者が描かれる。それは誰もが通り過ぎてきた、私たち自身の青年期の姿でもある。

風でテントを飛ばされたり、思わぬ降雪でバイクがスリップしたり。

チリのロスアンゼルスでは、「席がいっぱいで。相席しても?」と、ガラガラの店内で女性客のテーブルに同席するナンパぶりも。
「今日は旅を始めてからちょうど1年になる」とうそぶき、「記念にワインをごちそうするわ」という女性に対して、「アルゼンチンでは、ワインは食事をしながら飲むと決まってるんだ」と、エンパナーダ(具入りパン)までおごらせてしまうずうずうしさ。挙句の果てに「今夜は公園で寝るか」と呟いて、寝室まで面倒みてもらうちゃっかりぶり。

一方で、共産主義者ゆえ、警察から逃れるため旅を続ける夫婦に、「仕事を探しているわけでもないのに、なぜ旅をするの?」と問われて返答に窮する場面や、チリ・アタカマ砂漠の銅山で、採掘場の現場監督に「ここは観光地じゃないぞ、帰れ」と怒鳴られ、「水くらい飲ませてやれよ」と、日雇い労働者に肩入れするシーンも。
先住民でありながら土地を持てないインディオたちの現実を目の当たりにしたり、ペルー・サンパブロでは、ハンセン病療養所の医療活動に携わったり。
1952年1月4日の出発から約七月後の7月26日、カラカスの空港でゲバラは、「この長い旅の間に何かが変わった。その答えを見つけたいんだ、人々のために…」と言い残してアルベルトに別れを告げる。

旅先で出会う出来事の、ディテールに宿る背景や真実を見抜く、その洞察力がゲバラたる所以であり、もし私が彼と一緒に旅して同じ視線で物事を見たとしても、胸によぎる思いは全く異質のものになるだろう。
旅の価値は、移動距離や訪れた場所で決まるわけではない。旅に向き合う心構えと、考える力が試される。

もっと若い時代に観ておけば、私の旅の作法も違っていたのかもしれないが、いやしかし、見せ場のスタントシーンが、二人乗りのノートン500(1939年・イギリス製)で道路脇の水路に突っ込む程度では、アクション映画に夢中だった私には、地味な映画だなあ、くらいの感想で終わってしまったかもしれない。

南米の自然や街を捉えたカメラが美しく、主人公たちと一緒に旅している感覚に浸れることは、ロードムービーの醍醐味。

意気揚々と出発した二人が、勢い余って歩道をバイクで疾走するシーンに「PLAZA ONCE」の案内板。地下鉄A線とH線が交差する駅名らしく、きっとブエノスアイレスの中心街なのだろう。いつか訪れてみたい。

初めての国境越え、チリに向かうフリアス湖の船上で、「僕らが年を取って旅に疲れたら、この湖のほとりの、あのあたりに診療所を開こう。訪れた人は全て診るんだ。どうだ?」と、霧煙る幽玄な雰囲気の中、アルベルトに語りかけるゲバラ。
そんな夢とは、かけ離れた人生を送ることになるとは彼自身、知る由もない。

この時、母にあてた手紙に彼は、「国境を越える時、胸をよぎるのは二つの思いです。背にする国への郷愁と、新たな国へ入る興奮です(英訳:What do we leave behind when we cross a frontier? Each moment seems split in two, melancholy for what is left behind. and the excitement of entering a new land)」と記している。
旅を始めたばかりの頃、未知の世界への期待感にあふれる彼が、旅の終わり近く、療養所で別れのスピーチを求められ、「国籍という無意味なものによっていくつもの国に分かれていますが、南米大陸に住むものは一つの混血民族です。ですから偏狭な地方主義は捨てるべきです」と述べるまでに成長する。

迷路のように入り組んだ歴史ある美しい街並が、世界遺産に登録されているチリのバルパライソ(Valparaiso=天国の谷)。丘の斜面に建つ、モザイクのような家々の壁に陽光が映える。

ペルー・マチュピチュでは「子孫に残す」と、記念撮影に興じる二人。「これほどのものを築き上げた文明が、どうして滅ぼされたのか」と感想を漏らすゲバラだが、このあたりの行動と考えだけは、私と見事に一致した。

プカルパ(Pucallpa=ケチュア語で「赤い土」。製材業が盛んなペルー中部の内陸都市)から、サンパブロに向かう5日間の船旅。「プカルバは美人が多いが、君が一番」と、アルベルトがナンパした女性から聞かされる、bufeo( 川イルカ)の伝説。
先日観た中国映画「長江」でも、この川イルカが象徴的に描かれており、神秘的な生物の存在を知らされた。

コロンビア最南部の都市レティシア(Leticia 熱帯魚の積み出し港として発展)付近、同国とブラジル・ペルー三国の国境が交わる アマゾン川を、夕闇迫る中、いかだで下っていく二人。

旅情をかき立てられる本作品。空港で二人が別れる際「adios amigo」と言っていたことからも、スペイン語が使われているはずなのに、ゲバラが彼女の家を訪問した時、「Buenos dias」ではなく、「Bom dia」とポルトガル語に聞こえたのはなぜだろう。

また、クスコの旧市街地で「どれが『インカの壁』だい?」と訊ねるゲバラに対して、ガイドが「こっちがインカ壁、向うがインチキ壁」と答えるセリフ。
英語字幕では「This one here is Incan and that one is Spanish. As a joke we say this wall is made by the Inca, and that wall was made by the in-capables(無能者達). That’s what we call the Spanish.」となっているが、オリジナルのスペイン語では何と言っているのか、気になるところ。

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