スタティックストレッチ (静的ストレッチ) の原理とは

「宇都宮メディカル整体 Curare」を経営する田中奎伍さん (柔道整復師・骨盤ヨガインストラクター) を講師に、「操体法 ×解剖学・臨床における活用」と題した講習会が、「長野操体with」の主催で開かれました。

 

「筋肉は伸び過ぎても縮み過ぎてもダメで、バランスが大事。

筋肉の伸び縮みをコントロールする感覚器官が、『筋紡錘』と『腱紡錘』という2種類の伸展受容器。

両者の特性を利用した『スタティックストレッチ』の実践で、筋肉に柔軟性を取り戻すことができる」という話は、非常に興味深かったです。

 

1.  筋紡錘(きんぼうすい)=Ⅰa繊維   (ワンエー繊維 )

筋肉の中にあって、筋肉の長さを感知するセンサー。

筋肉が急激に引き伸ばされると筋紡錘が感知し、「直ちに収縮しろ」という命令を筋肉に送り返すことで、筋肉が伸び過ぎて傷つくのを防ぐ。
これを「伸張反射(しんちょうはんしゃ)」という。

 

身近な伸張反射の例として、膝蓋腱反射が挙げられる。

    1. 膝下(膝蓋腱)を叩くことにより、大腿四頭筋が瞬間的に引き伸ばされた状態になる。
    2. 筋紡錘が反応し、急激に引き伸ばされたことを感知して、脊髄に伝達する。
    3. 脊髄では、大腿四頭筋を支配している神経に、収縮の命令を出す。
    4. 神経の伝達に従って、大腿四頭筋が収縮し膝が伸びる。
    5. 同時に、拮抗筋であるハムストリングスを弛緩させる反応 (相反抑制) も働いている。

2 腱紡錘(けんぼうすい)=ゴルジ腱器官 =Ⅰb繊維  (ワンビー繊維 )

筋肉の末端が骨に付着する部位「腱」に存在する感覚器。

筋肉が縮むと、腱は逆に伸ばされる。
腱紡錘は防御性収縮で縮もうとして、筋肉に「緩めろ」という信号を送信、結果的に筋肉の緊張が低下する。

 

3 スタティック・ストレッチ

筋紡錘の過剰反応で筋肉が収縮する一方で、腱紡錘の抑制機能が働かず、筋肉が縮んだままになった状態が「こむら返り」といえる。

 

この「こむら返り」とは反対の状態を意図的に作り出す、つまり筋紡錘は刺激せずに、腱紡錘だけを反応させるのが「スタティック・ストレッチ (静的ストレッチ) 」

反動や弾みをつけずに筋肉をゆっくりと伸ばすことで筋紡錘への刺激を減らし、伸長反射を起こさないようにしつつ、腱紡錘は伸張させて刺激し、筋を弛緩させるストレッチ法。

 

4 スタティック・ストレッチ理論に基づく操体法

操体法の「痛くない、楽な方向に動く」という動作は、緊張している筋肉をさらに収縮させることで、筋肉の両側に付いている腱を伸ばし、筋紡錘を刺激することなく、腱紡錘のみを刺激して、筋肉の緊張を解くという効果につながる。

スタティック・ストレッチとは正反対の動きだが、ともに腱を伸ばすことにより、筋肉を弛緩させるという原理は共通している。

 

5 PNFと操体法

筋肉・関節・皮膚にある「固有受容器」を刺激し、神経と筋肉の連動性を高めて運動機能を改善するリハビリテーション・治療手技は「PNF  (Proprioceptive Neuromuscular Facilitation = 固有受容性神経筋促通法)」と呼ばれ、1940年代にアメリカで開発された。

代表的な手法が「ホールドリラックス」

これは、パートナーの抵抗に対して5〜10秒ほど筋肉を収縮(力を入れる)させた後、一気に脱力して伸ばすことで、通常のストレッチよりも深く安全に柔軟性を高めることができる。

操体法では、楽な方向に動いた (筋を収縮させた) あとに、2~3秒動きを止め (たわめ) る動作があるが、PNF の効果と共通している。

 
PNFが固有受容器(センサー)を科学的に刺激するのに対し、操体法は「快・不快」という原始的な感覚を重視している。

PNFは、外部からの刺激やパターンで神経回路を「促通(Facilitation)」させる。
これに対して操体法は、身体が本来持っている「自己設計ミス(歪み)を自己修正する能力」を、感覚を通じて引き出すといえる。

 

6 血液循環と操体法

筋が疲労し緊張すると血液循環が悪くなり、酸素不足・乳酸など老廃物の蓄積が起こり、さらに緊張が高まるという悪循環に陥る。

操体法での、2~3秒動きを止め (たわめ) る動作は、筋の等尺性収縮  (筋の長さを変えずに内圧を高める動き) の状態を保つことにより、古い血液の絞り出し (milking) も行っていると考えられる。

その後に脱力することにより、新しい血液の流入が増し、筋がリフレッシュして緊張が解消される。

 

7 APAと操体法

APA(Anticipatory Postural Adjustment:先行随伴性姿勢調整)とは、私たちが何かを動かそうとする「直前」に、無意識のうちに姿勢を安定させる脳の準備システムのこと。

リハビリテーションやスポーツ科学において、動作の滑らかさや安定性を左右する重要な概念とされている。

たとえば、脳が「これから腕を上げる」と決めた際、その動きでバランスが崩れることを事前に予測し、体幹や下肢の筋肉が先に収縮し、身体を土台から固める。

 起きたズレを直す(フィードバック)のではなく、ズレが起きないように先回りして調整する「フィードフォワード」の仕組み。

全身の連動性という点で、操体法と考え方が共通している。

 

APA の考え方「全身の先読み連動」だとすれば、操体法では「体の一部を動かせば全身に波及する」という考え方。

たとえば、つま先を動かすことで腰や首の歪みを整えるなど、連動の鎖(キネティックチェーン)を、操体法は重視している。


APAが脳による無意識の「予測的制御」であるのに対し、操体法はその連動性を「気持ちよさ」という感覚をガイドに、意識的に再構築する作業と言える。

 

操体法における 左右側屈・左右捻転 は、筋肉を縮めることで腱紡錘の反応を利用した操法であり、腕の水平上げ・足踏み・前後屈・背伸びは、APAを利用した操法といえる。

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