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気持ちがいいと痛みが消える。操体法の誕生秘話「おんころやの人生を想う」

気持ちがいいと痛みが消える。操体法の誕生秘話「おんころやの人生を想う」

「体が変になった時は動きを試してみる。前後左右の屈伸と左右の捻りと上下の伸び縮みをやってみる。痛い方がある。その時は反対の動き、すなわち気持ちよい動きをすると治る。出来ないと不便だから、できない方向に動かしててやれと、痛い方へ頑張ると悪くなる」という考えに基づき、生体の歪みを整える「操体法」

その創始者(本人は否定していますが)  である橋本敬三さんの生き様が、息子達らによって記録にとどめられ、「おんころやの人生を想う」という本になって発刊されました。

橋本さんは明治30年に福島県で生まれます。

新潟医専を卒業、東北帝大生理学教室で学んだ後、臨床教室を経ずに病院に飛び込みます。しかし「(現在の) 函館中央病院で五年間診療をやったが、自分の貧弱な力を省みるにつけ、民間療法に眼が向いた」として、漢方・鍼灸などの東洋医学を治療に取り入れるようになります。

「ある時、北洋帰りの漁夫でマストから落ちて前額に陥没骨折を起こしてくぼんでいる者が来た。圧迫でくぼんだのなら圧力で押し返せないものかと、頭をあちこち押してみたら、ちょうど正反対側に非常な圧痛点がある。そこを毎日少しずつ静かに押してみた。一か月ばかりでだいぶ浮いてきた。外科の成書では、骨格の変形は石のごとく治らないものと決めつけていることに疑問を持った。

民間療法を漁るなかで私は、痛いことをしないで、痛くない方向に動かして治す方法があることを知った。骨を動かすのだ。私にはピンときた。骨格と疾病とは関係があるな。押しても骨格は動く」と、操体法の理念をつかみます。

日中戦争から帰還後の44歳、鍼と手技療法を中心とした「温古堂医院」を仙台に開業。しかし再び朝鮮戦争に応召、終戦後はソ連に抑留されます。51歳で抑留から帰還、温古堂の運営とともに「日本医事新報」に寄稿、「メカニズムの解明も必須だが、雑多なミクロの知識の寄せ集めでは、生命の健康増進とはならない。大事なマクロの生活法則に無関心すぎる」と警鐘を鳴らしますが、医学界は無反応でした。

79歳にあって「食と息の問題は今、勉強中」としながら、「私の生涯はジグザグなよろよろ歩きを続け、ひとかどの医者にもなりきれず、やっと健康の追求と生命の礼拝の門にたどり着いたところだ」と日記で述懐しています。

この年、妻に先立たれ、「彼女が望んでいた現代医学の大先生、大院長にもなれなかった私は冷たい夫だった。許してくれよと祈るのみ。お迎えがあればいつでもとんでいくからね」とも記しています。

体の基礎構造による生理と医療に関する提言を繰り返すも、沈黙を守る医学界。失意が続く日々の中、民間からの動きで状況は一変します。

「交通事故で会社も辞めざるをえなかった私を、数回の治療で治してくれた」との視聴者からの声で、NHKが「温古堂探訪記」として取材・全国放映。これが大反響を呼び、医院には各地から訪れた患者の長い列ができました。

「天から傘寿の褒美なのか。天恵満喫の気持ち」と日記にはあります。

番組を製作したディレクターは、橋本さんとの初対面の模様をこう振り返ります。

「その名医は薄暗い離れの和室で、小さな火鉢を抱えるように座っていた。薄汚れた白衣を着て、ちょび髭を蓄えた小柄な老医師が橋本医師だった。

先生は火箸で炭を掻き回しながら、『まあ良いから、そこに置いた二つの体重計に片足ずつ乗ってみなさい』と、インタビューを始めようとする私に言った。

測ってみると二つの体重計に片足ずつの目盛りは、左右で五キロの差を示していた」

さらに橋本さんの印象について、ディレクターは続けます。

「80歳になった今、取材で知り合った人々の中で、顔が浮かんでくる人の数は、そう多くはない。
しかし、初代ケニア大統領・ケニヤッタ氏と撮った写真をお守り代わりにパスポートに挟み、アフリカを回っていた地方紙の移動特派員・星野良樹氏、そして橋本氏。
両者とも無私無欲でありながら、野次馬精神に溢れた人物として印象に残っている」

橋本さんは平成5年、96歳で亡くなりました。

一つの道を求めつつも深刻ぶらず、飄々と生きた橋本さんの姿に感銘を受けました。

なお、ヨガに関する記述が以下の通りありました。
「聴講生から先生の話と同じようなことが書いてあるとて、沖正弘氏の「ヨガの楽園」を見せられて驚いた。六十台に至ってやっと見当がつきかけたことが、数千年前から実践されておったのだ。」

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