「白馬にキッチンカーが集結して、屋台村ができているらしい」
そんな聞き捨てならぬ情報が一昨日、友人から入ったので、五竜遠見スキー場でゴンドラ数本滑った帰り道、八方尾根に足を延ばしてみました。
なるほど、ゴンドラ乗り場方面と名木山ゲレンデ方面への分岐点に、8台ほどの車が停まって店を開いています。
お値段は、観光地価格です。
と、敷地の一角にミステリアスなゲルが…、何かを引き込もうとするかのように、扉は開け放たれています。
意を決して飛び込んだ私の目に飛び込んできたのは、カウンターにドーンと置かれた一升瓶。
真っ昼間から営業しているバーでした。午後の時間帯は Happy Hour ということで、なんと日本酒飲み放題500円。一瞬、動揺しましたが、決心はすぐ固まり、バスで帰ることにしてオーダー。
オーストラリア人の客を歓迎して、ギターの生演奏が始まります。演目は何故か、アメリカ・バージニアを歌った「カントリー・ロード」
「オージー (オーストラリア人) と会話するとき、何か便利な英会話フレーズってありますか?」
こう切り出した私に、カウンター越しにマスターの答えが返ってきました。
「例えば、グッダイ・マイド (Goodbye mate /またね、相棒) みたいに、ma- が “メ” でなく “マ” の発音になるんだ。
俺に向かってみんな『まいど、まいど』って言うから、どうして関西人だってわかったんだろう、って最初は思ったよ。ハッハッハッ」
カラカラと笑う大阪出身のマスター、スノーボード好きが高じて白馬に移住。現在は、ゲレンデで花火を打ち上げるイベントを手がけているそうです。
お客さんたちからの寄付金に頼るため、一回につき予算三万円程度、プロに頼んで数発打ち上げる規模ですが、毎週末の恒例イベントとして定着を目指しているそうです。
その苦労の報酬は、お客さんたちの無邪気な、はしゃぎぶりを見ること。
「特にオージーは大喜びするよ。
オーストラリアでは、手持ち花火や家庭用の打ち上げ花火は禁止されているんだ。だから、ドン・キホーテで買ってきた花火を渡すだけで、彼らのテンション最高潮だよ」
それを聞いたとき、私の頭の中でピーンとひらめいたものがありました。
さきほど、五竜遠見のゴンドラで、乗り合わせたオージーと会話した時のこと。
「オーストラリアでは、新年はどんなふうに過ごすの?」と訊いた私に彼は、「ニューイヤーに合わせて、街では花火が打ち上げられるんだ。それを見て楽しんだあと、ボーイズ&ガールズは飲みに繰り出すってわけさ」
「セプテンバーかオクトーバーには、ベィビィがたくさん生まれるわけだね」
ひとしきり二人で笑い合った後、「花火はオーストラリアでもポピュラーなの?」と訊いたのですが、彼が手首を指さしながら「ガバメント (政府が)…」と話し始めたとき、ちょうどゴンドラが山頂ステーションに到着して、機械音に会話はかき消されてしまったのです。
マスターの話を聞いて理解できました。
「手持ち花火による怪我が多いから、国が家庭用花火を禁止したんだ」そのようなことを、ゴンドラの彼は言っていたのだと。
まだまだマスターの話を聞きたかったのですが、他にお客さんも入ってきたので、花火の募金箱に500円硬貨を入れて、ゲルを出ました。
花火とともに、マスターの志も高く花開くことを願いながら。