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アメリカ俳句 “Six-Words” の秀逸さは、日本語では表現困難

屋根を叩く雨の音が、夜半まで続いた昨夜。「五竜遠見スキー場のアルプス平ゲレンデなら、降雪になったかもしれない」と狙ったものの、朝方も曇天だったので、室内でネットサーフィン。すると、興味深い英文に出会いました。

 

I still make coffee for two.

これは、2006年にアメリカで行われた「人生を、6つの単語で表現したら (Six-Words)」という企画への応募作品です。

上記の英文を直訳すれば「私は今でもコーヒーを二人分淹れる」。

しかし、中学校で習った「現在形」の感覚で、この make を解釈すると、いまひとつ、この英文の深みが味わえないような気がします。

「現在形」という名称よりは、「日常形」「普段形」とでも名付けた方が良い気がしています。

例えば、”I am a man. / 私は男だ” という英文は、たしかに現在のことを述べていますが、かといって、明日は女になるわけではありません。(そういう情況が、全くないとは言えませんが…)

昨日も明日も変わることのない日常を表すのが、日本語でいうところの「現在形」です。

そんな観点で、上記の英文を意訳すると、

「昨日、コーヒーを二人分淹れた。今日もまだ、二人分淹れている。おそらく明日も…」

という感じでしょうか。

毎朝、恋人のためにコーヒーを淹れていた日常が、別れたあとも習慣として残っている切なさが、しみじみと伝わってきます。

英語版俳句ともいえるこの「Six-Words」、ある作家のエピソードでクローズアップされました。

作家が昼食の席上、「6つの単語だけで、全ストーリーをつくってみせる」と言って、ナプキンに書いたのが以下の物語。

 

“For sale: baby shoes, never worn. /  売ります : 赤ちゃんの靴、未使用 ”

 

作家の名は、アーネスト・ヘミングウェイ。彼はこの物語を「自分の最高傑作」と述べたとも言われます。

ここでも、英文の現在完了形が使われていることで、表現が際立っていると思います。

現在形 (wear) でもなく、過去形 (wore) でもなく、期間を表す現在完了形 (never worn)。

おそらく、待ちきれず両親に買われたであろう赤ちゃん用の靴が、一度も履かれることなく売りに出されている。never worn という、たった二語で表現された期間に何があったかを思うと、涙が溢れてきます。

 

同じように、次の物語も現在完了形を使うことで、贈れなかった指輪が、まだ手元に残っている光景が浮かんできます。

“Never should have bought that ring. / あの指輪、買わなきゃよかった”

 

お次は、「ウォッチ・メン」などの漫画原作で知られるイギリス人作家、アラン・ムーアの作品。

“Machine. Unexpectedly, I’d invented a time / マシンを。偶然にも私は発明した、タイム”

「偶然、タイムマシンを発明した」と書いている間に、( time と machine の間に)時間が過去に飛んでしまったという設定。

“I have invented / 発明した ” という文が、”I had invented / すでに発明していた” という過去完了形になっていることで、タイムパラドックスの面白さを表現している、これも英語ならではの芸ですね。

 

では逆に、日本の俳句を英訳するとどうなるのでしょうか。

“Old pond – frogs jumped in – sound of water.”

これは、芭蕉の俳句「古池や 蛙飛び込む 水の音」 を、小泉八雲 (=ラフカディオ・ハーン ) が英訳したものです。

蛙は複数形になっており、その動作には過去形が使われています。

日本語の原文からは、「静かな池に蛙が一匹飛び込んだ」一瞬の情景が目に浮かぶ (私個人の感想ですが) のですが、八雲の世界には、「蛙が飛び込む音で賑やかだった池に、静けさが戻ってきた」という時の流れが感じられます。

日本人は刹那的に、欧米人は時の幅を感じて物事を見るのかな?。その感覚の差が、日本人には理解しにくい「現在完了形」という文法として、英語には存在しているのかもしれません。

外国語のバックボーンにある「感覚」を身に付けるのは容易ではありませんが、しかし、その感覚が「あ、わかった」と思えた瞬間、語学力はグン!と伸びるのでしょう。

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