遂に見つけた理想の地、そこに待っていたラスボス「条件付所有権移転仮登記」

新たな事業用地を求めるべく、美麻に引っ越してから早2年、この間、地元の方からいくつかの用地を紹介頂きました。

しかし、「お目当ての眺望がちょうど隠れてしまう」「私が新築するとお隣さんの眺望を邪魔してしまう」「眺望は良いが日当たりが悪い」など、全ての条件を満たす物件にはなかなか巡り会えず、希望通りの土地を手に入れることは不可能、妥協もやむなし、と諦めかけていたところ、「眺望日当たり抜群、周囲は静かな農地、所有者に売却の意思あり」という、理想の土地と出会いました。

嬉々として法務局に出向いて登記簿を取得したところ、何と、「条件付所有権移転仮登記」がされているではないですか。

 

つまり、

  • 仮登記が行われているという事は、既に売買契約は成立している。そして、代金は支払われている可能性が高い。
  • 所有権移転の本登記には農地法第5条の許可か必要だが、仮登記人が農業委員会に申請をしなかったか、あるいは申請したが却下されたため、土地はそのまま放置されている。
  • 仮登記人には「本登記請求権」が残っているが、引っ越しており、その所在は不明。所有者は高齢のため記憶が曖昧。

私が土地を購入するためには、仮登記人を探し出し、仮登記の解除承諾を得るのが、順序として妥当ですが、住所を追跡するため市役所の住民課窓口に行っても、個人情報を開示するとは思えません。

 

弁護士や司法書士に依頼して追跡できたとして、解除に応じるか、万一仮登記人が死亡していたら、相続人全員の承諾が必要です。

 

あるいは、仮登記人の承諾を得ずに仮登記を抹消する方法として、裁判手続きを利用する手もあります。

 

不動産登記法は、登記によって利益を得る者(本件では仮登記人,「登記権利者」と呼ぶ)と、登記によって権利を失う者(本件では所有者,「登記義務者」と呼ぶ)とが、共同して登記申請しなければならないと定めています(60条)。

しかし、本件のような行方不明の場合に限らず、一方当事者が何らかの理由で登記申請への協力を拒否している場合を想定し、法は、共同申請すべき当事者の一方に「登記手続を命ずる確定判決」の規定を設け、判決書及び判決確定証明書を登記申請書に添付できる場合は、一方当事者による単独申請を認めています(63条1項)

 

確定判決を得るためには、裁判官を納得させるだけの法的理論武装が不可欠です。

 

仮登記人が土地に対して、その後も関心を持って積極的な行動を取っていない場合、民法167条1項「債権は十年間之を行はさるに因りて消滅す」という「消滅時効」を主張できるかもしれません。

 

ところで、「行方不明者を相手に訴訟を提起することは可能か」という疑問も浮かびます。自身の関与のないところで判決が言い渡されることは、深刻な不利益がもたらされるからです。

 

このため民事訴訟法は、「特別送達」と呼ばれる特殊な郵送方法を定め、訴状が相手方に届いたか否かを厳格に判断しているそうです。
一方、行方不明者のように送達が不可能な場合、「公示送達」という方法が用意されています。(民事訴訟法110条)

 

具体的には、裁判所の敷地内の掲示場に、呼出状を2週間掲示することで、相手方に送達されたものと扱う方法です。

無論、相手方は公示送達による呼出があることを知ることなく、訴訟は結審される事がほとんど。

このため、公示送達がなされるまでには、裁判所から訴訟を提起した者に対し、考えられるあらゆる調査と、その旨の報告書の提出が求められるようです。

 

上記のような裁判手続きは別として、登記手続きについて法務局の登記官に相談したところ…

 

  •  仮登記人に所有権は移転しておらず、仮登記人の権利は「本登記請求権」のみだが、本登記するためには農地法第5条の許可書が必要。
  •  所有者が第3者と新たに売買契約を結ぶことは可能だが、当然ながら、第3者も農地法許可を得ない限り、所有権移転登記はできない。
  •  農地法の許可を得た者が、所有権移転本登記ができる。

…ということで、仮登記の解除承諾することなく、農地法許可を得た者が「早い者勝ち」で、所有権を得ることができるようです。

 

つまりは、農業委員会に確認するところから手をつける、ということですね。

仮登記を解除できたにせよ、私が農地法許可を得ることができなければ、所有権も得られないのですから。

 

※ 農地 (登記の地目が農地以外でも、現況が農地なら農地扱い) を、農地以外の目的に利用したい場合、農地法の手続きが必要。

  •  所有者が変わらないときは、農地法第4条の手続き。
  •  所有者が変わるときは、農地法第5条の手続き。農地が市街化区域なら届出。市街化調整区域なら許可申請。

農地法の壁。第一種農地の宅地転用は不可能か>>>

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