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予約困難な人気宿「星野リゾート 界 アルプス」に、バブル時代の幻影をみた

人気宿を展開し、予約が取れないことで有名な「星野リゾート」。その星野が、全国14ヵ所に展開する温泉旅館ブランドが「界」です。

「界」ブランドのひとつ、大町温泉郷の「界 アルプス」を、go to トラベルの機会を利用して、友人と二人で訪れました。

当初は浅間温泉にある「界 松本」を予約しようと思ったのですが、go to トラベル の期限 (予約当時) である1月末まで満室だったので、かろうじて三日ほど空室のあった「界 アルプス」に予約を入れました。

宿までの交通手段は、JR長野駅東口と宿とを結ぶ専用バスを利用、私は唯一の途中バス停「信濃大町駅」から乗車しました。

大型バスの車内はほぼ満席です。

定刻の15時より若干早く宿に到着すると、宿泊の予約順に降車の案内。一斉に下車して、フロントが団子状態になることはありません。

1グループ1名ずつ配置されるスタッフの案内で食堂のテーブル席に移動、グループごとにチェックインの手続きをします。

コロナ対応のせいもあるのでしょうが、部屋に案内された時には、バスが到着してから既に30分が経過していました。

部屋に入ると、二段ベッド2台の奥に畳の小上がり。広いです。

寝る時、暖かいだろうと思って、友人とそれぞれのベッド上段を利用したのですが、下段より空気が乾燥していたのか、友人は翌朝、「のどが痛い」と訴えていました。

入口には障子を利用した間接照明。茶器のセットも、陶器店の陳列棚を見ているようです。

15時30分から、オプションで申し込んでおいた「漬物づくり体験」に1時間ほど参加、その後、温泉に出たり入ったりしながら夕食を待ちます。

フロント棟の囲炉裏をしつらえたスペースでは、おやきや地酒の振る舞いがあり、客を飽きさせない工夫がされています。

夕食は17:30~と19:30~の2コースから選択できますが、私たちは 19:30~のコースにしました。

夕食は、多品種を少量ずつ。

八寸「ズワイガニ小袖寿司」「南京の厚焼き玉子」「二種の芋のきんとん」「小松菜と焼き椎茸のお浸し」「ずいきの土佐和え」「茄子のすり流し ランプフィッシュ」「海老の芝煮」「つぶ貝のやわらか煮」

酢の物「茸の土佐酢和え」

地酒「金蘭黒部」「白馬錦」「大雪渓」の純米吟醸酒が、進んでしまいます。(各1,120円)

焼き物「白子のほうらく焼き」

煮物椀「蟹のひろうす 菊花 三つ葉」

自分でおろした山葵で、お造りを頂きます。

「鰤の幽庵焼き、三つ葉、柚子の土鍋ご飯」

締めの甘味は、信州らしく「リンゴのシャーベット はちみつと山葵の香り」 ドライリンゴがアイディアです。

夕食を終え、食事棟から宿泊棟に移動するとき、「雪駄」が持つ文字の意味と機能を、身をもって知りました。

雪道でも滑ることのないグリップ力、さしずめ、下駄のスタッドレスタイヤです。

さらに、部屋に用意されていた「湯足袋」も厚手で、踵と母指球に滑り止め付きのデラックス仕様。寒さを感じさせません。

界アルプスは旅館「松延」をリニューアル、体験を楽しめる温泉宿として2017年にオープンしました。

何もかもが贅沢です。

なのですが…。
脱衣場に積まれた使い放題のタオルの山などをみているうち、何だかバブル時代の旅館を思い出しました。

贅沢なサービスとともに当時、特徴的だったものが「囲い込み」です。宴会後の二次会からカラオケルーム、お土産の購入まで、すへて旅館の中で消費完結させるシステムです。

バブル崩壊後、グループ旅行が個人旅行者や外国人観光客に取って代わられ、「夕食は地元の食堂で」と需要も変化、B&B (ベッドと朝食のみ) の宿が台頭する一方、多くの巨大旅館が姿を消して行きました。

こうした流れの中、あえて当時の手法を再現したのが、星野リゾートの戦略なのかもしれません。

ターゲットを団体旅行から家族・少人数グループに変え、彼らの欲求を満たすサービスに特化改善する。

有り余る宴会料理をこれでもか、と並べたバブル時代と違い、多品種の料理を少量ずつ、見た目も華やかに提供する、そんな食事スタイルは、時代に合致したサービスの最たる例でしょう。

翌日、宿からの帰路、長野駅まで専用大型バスに乗車したのですが、途中、オリンピック道路をはずれ、中条地区の狭い生活道路を走行していました。

時間調整のためなのかもしれませんが、数百円の有料道路代をケチっているように思ってしまいました。

車輌は「北アルプス交通」のバスだったので、星野リゾートが送迎業務だけを切り離して、委託に出しているのかもしれません。たぶん相当に叩いた委託料で。

長野大町間の路線バスが、アルピコ交通により運行されていますが、冬季間は空気だけを運んでいることがほとんどです。

星野リゾートの満員に近い送迎バスを見るにつけ、公共バス路線と連携する方策は、星野リゾートの経営戦略には入ってないのだろうな、と感じました。

地元の協力は仰がないし、こちらからも協力しない。

そんな、我が道を行くポリシーを貫いているからこそ、発展を遂げたのかもしれません。

旅館の若い女性スタッフは、完璧な物腰と言葉遣いの応対でしたが、「大町市の美味しいお店はどこ?」と大町在住を隠して質問すると、「行ったことはないんですけど、俵屋の餃子は有名みたいですよ」との回答。

きけば関西出身で、この冬から星野リゾート勤務を始めたとのこと。

地元のおばちゃんが中居のアルバイトに来る、なんてことは星野リゾートでは有り得ないことなんだろうなあ。

そんなことを考えながら、思い出したのは海外のバックパッカーズホステル。

そこはリーズナブルなベッドの提供とともに、観光地のゲートウェイの役割も果たしています。

ラスベガスの一画にさえ、10数ドルで泊まれるホステルがあり、ロビーの壁は地元のレストランやツアーのチラシで埋め尽くされています。

私もここで、グランドキャニオンのヘリコプターツアーをブッキングしました。

もちろん、ホステルのスタッフがヘリコプターを操縦するのではなくて、翌朝、ヘリツアー専門の会社がホステルまで迎えに来てくれ、あちこちの宿で私のような客をピックアップしながら空港に向かう、という分業システムです。

こうした異業種連携が、日本の観光地になかなか定着しないのは何故だろう、とよく思います。

日本では旅行者側にも、旅行はパッケージで楽しむもの、という意識があるのかもしれません。そうした需要をうまく掘り起こしたのが、星野リゾートなのでしょう。

「当館にお越しさえすれば、飽きずに楽しむことができますよ」と。ある意味、宿泊業界のディズニーランドですね。

でも、宿泊客は帰ってから話すんだろうなあ。「信州の大町市に行ってきたよ」ではなく、「星野リゾートに泊まってきたよ」って。

界アルプス全体図

宿泊した西棟206号室の窓には、祥龍山泉嶽寺の社と田園風景が広がります。

大町温泉郷全体図

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